「精神科医 香月悠のカルテ」 パラレル

〜 香月と冴月、2人の本当の関係は? 〜



「──香月、正直に言ってくれないか」
「なにを?」
 いつものバーで飲んでいると、真剣な顔で秋山が切り出してきた。なんだか押し迫った空気を感じ取ったものの、香月はなんの覚えもなく首をかしげる。

「お前と冴月は、どういう関係なんだ?」
「…秋山だって知ってるだろう? ただの友達だよ」
 そんな顔をして、なにを訊くかと思ったら──と香月は笑い飛ばした。
「私は正直に言ってくれと、前置きしたはずだが?」
 切れ長の瞳がつめたい光を帯びて、香月を捉える。少し黙った後、香月はゆっくりと瞳を閉じて嘆息した。


「……もう隠せないみたいだな。分かった、話すよ。そうだな、一体どこから話せばいいのか…」
 緊張の面持ちで、秋山は香月の言葉を待った。
「医者になって、数年後のことだ。俺はある方法で金儲けをした」
「ある方法ってなんだ?」
「それは秘密だ。とにかくその金を今度は、違うものに投資した。それがこの歌舞伎町のクラブだ」
「は?!」
 眉を思いっきりひそめて、秋山は驚きの声を上げる。

「後は説明するより、実際に呼んだ方がいいかな」
 右手を天井を向けて挙げ、パチンと指を鳴らした。すると正装をしたひとりの男が、すぐにテーブルにやってきた。
「──オーナー、お呼びですか?」
「うちのナンバー1を呼んでくれ。彼に会わせたい」
「畏まりました」
 深く頭を下げて男が去ると、やがてそのナンバー1が現れた。淡いブルーを基調とした華やかな衣装を着た彼女は、唇を少し持ち上げて秋山にこう言った。


「…あら、貴方。来たのね」
「さ、さ、ささ……冴月?!」
 普段冷静と言われている秋山の顔が、今度こそあっけなく崩れた。しかも声が裏返っている。
「つまり、俺と冴月はこういう関係ってこと。分かった?」
 冴月の肩を抱き寄せて、片目をつむってみせた。

「ちょっと待て! その手はなんだ、その手は!!」
「経営者だから、なんでもしたい放題☆ なーんてね?」
「なにが、『なーんてね?』だ!」
「あははは…! 俺のマネなんか似合わないよ、秋山」
 怒りのあまり、酒を飲んだこともあってか顔を真っ赤にして、秋山は香月から妻に目を向ける。

「な、何故なんだ冴月! 何故こんなところで働いている?!」
「だって貴方ったら、私を放って仕事ばかりしているでしょう? 家にいてもつまらないのよ。悩んでいたら、悠から店に来ないかって言われてね?」
「なんてことだ……」
 悪びれる様子もない妻を見て、秋山の顔色は一変して蒼くなった。クラクラする頭を、片手で必死に押さえている。


「せっかく来たんだ、今夜は楽しんで行けよ。──冴月、最高のおもてなしを」
「えぇ、よろこんで。『クラブ KOUDUKI』で、最高の時間を貴方に」
 お決まりのセリフを告げて、冴月がにっこりと微笑んだ。
「こんなことがあってたまるかーーっ!」
 秋山はあまりの現実(?)に耐えられず、その大声がバーの中で響いた。



【終わり。…というか、早く終わってください】



裏話

このお話は、あくまでパラレルです。信じないでくださいね。


「いきなり次回予告」 予告作成者:ココさま
全財産を失った秋山は、激貧生活から抜け出すために夜の歌舞伎町に繰り出した。
クラブ〈香月〉のドアを叩くが、その向こうに待っていたものは…!!
次回、秋山の夢は夜開く『No.1・冴月』お楽しみに!!


『上記のネタ』+『香月と秋山が最後に会ったバー』設定です(一部抜け落ちてるところもありますが)。



 設定をいただいた瞬間、思いついたネタです(笑)。パラレルなので、本編の差が結構あるのでは。実際は歌舞伎町のクラブではなく、普通のバーです。本当に秋山がクラブに行った日には、怖ろしいことが起こるでしょうね…。

05.05.20